山での出会い
僕は自然が好きである。休日になるとよく山川に出向き自然を楽しむ。そこで出会った一人の山男との会話がとても面白かった。全長13キロに及ぶ三段峡には五大壮観(黒淵、猿飛、二段滝、三段滝、三ツ滝)なる見所がある。先日の休みを利用して僕は訪れた。渓谷の入り口から3キロほど歩いたところが、第一の五大壮観、黒淵の渡船場である。そこに50代くらいであろう、日焼けしたボサボサ頭の船頭がいた。
「大山椒魚を見ることが出来るかな?」と僕はその船頭に問いかけた。山歩きをしながら、こうした初めての人との会話を楽しむのも、僕の楽しみの一つである。大山椒魚は地元では「ハンザキ」と呼ばれているそうで、戦前の貴重な蛋白源だったそうである。今では食べる人はあまりいないと聞いていた。船頭は待ってましたと言わんばかりに、色々話し出してくれた。「ついこの間までは向かいの黒淵荘で水槽に入れとったんじゃけど、逃がしてしもうた」「天然記念物といわれた頃もあったけれど、数は大分増えとる」「鰻よりも美味しいぞ」
僕の数少ない知識から「今は食べないんじゃないんですか?」と聞くと、これもまた、嬉しそうに答えてくれた。「今でも若いもんが集まれば食うとるよ」そういって、あれこれと生臭さのとり方や皮のむき方など、船頭流の調理方法を教えてくれた。そんな話を聞いているうちに、「はは~ん、逃げられたといった大山椒魚の行方が解ってきた」と僕は思い、そう思いながら聞いていると、ますます彼の話が楽しくなった。
大山椒魚を見れなかった事は残念であったが、彼とのやり取りは、僕にとってとても楽しかった。聞いているとたわいも無い会話だけれども、なんと言うか、自然で生きる男の頼もしさを感じた。もしかすると、彼が大袈裟に話しているのかもしれない。山に訪れる人たちを楽しませるためにである。けれども、そんな事は僕にとってはどうでも良かった。確かなのは、山で出会った彼から、何か不思議な感覚を覚えたのは確かなのである。
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